定年が近づいたとき、会社はお金のことを教えてくれない。人事歴30年の私が、同じ50代に伝えたいこと。
「老後のお金、なんとかしなきゃと思いつつ、何から手をつければいいかわからない」
そう感じているなら、それはあなたのせいではありません。会社は、あなたの老後のお金について、実はほとんど教えてくれないからです。
私は30年近く、人事の仕事をしてきました。採用、評価制度、給与設計、退職金制度——社員のお金にまつわる仕組みを、内側から見てきた立場です。
そして気づいたことがあります。退職が近づいた50代の多くが、自分の退職金や年金の「本当の受け取り方」を知らないまま、会社を去っていくという現実です。
「会社がなんとかしてくれるだろう」「総務に聞けばわかる」——でも、聞いてみると意外と教えてもらえない。それが現実です。
この記事では、人事として見てきたリアルと、私自身が50代になって実際に調べ・動いた経験をもとに、「知っておけば得をする3つのこと」をお伝えします。難しい話は抜きで、できるだけ身近な言葉で書きます。
1.
退職金は「もらい方」で手取りが変わる。でも会社は教えてくれない。
突然ですが、お土産を買うとき、空港で買うより地元のスーパーで買うほうが安いことがありますよね。同じ商品でも、どこで買うかで値段が変わる。退職金も、もらい方が違うだけで、手取り額が大きく変わります。
退職金には大きく2つの受け取り方があります。
- 一時金(まとめてもらう):退職所得控除という大きな税の優遇があり、長く勤めるほど控除額が増えます。勤続30年なら、控除額は1,500万円。つまり、退職金が1,500万円以下なら税金はほぼゼロです。
- 年金形式(分割してもらう):毎年少しずつ受け取ります。ただし、受け取るたびに「雑所得」として税金がかかります。
人事の仕事をしていると、退職する社員から「どっちがいいですか?」とよく聞かれます。でも会社側は、有利・不利を教える立場にありません。それぞれの家庭の事情が違うからです。
私自身も、退職金と会社のDC(確定拠出年金)をどう受け取るか、税制面で比較しながら検討しました。調べるまで知らなかったことがいくつもあって、正直「もっと早く調べればよかった」と思いました。
まず確認してほしいこと:自分の退職金の制度が「一時金のみ」「年金形式のみ」「選択できる」のどれかを、会社の規程で確認すること。
総務か人事に聞けば、規程を見せてもらえます。
2.
定年後に「再雇用」を選ぶと、給与は想像以上に下がる。
「定年になっても、再雇用で同じ会社で働けるから安心」と思っている方は多いです。でも、人事として見てきた現実はもう少し複雑です。
再雇用後の給与は、現役時代の5割〜7割になるケースが多いです。役職がなくなり、基本給がリセットされるからです。たとえば月収50万円だった人が、再雇用後は月30万円前後になることは珍しくありません。
これはイメージでいうと、長年通ったレストランで、急にメニューが変わるような感覚です。同じお店なのに、同じ料理が出てこなくなる。
もう一つ知っておいてほしいのが、「在職老齢年金」という制度です。60〜64歳で働きながら年金をもらうと、給与と年金の合計が一定額(2025年時点で月50万円)を超えると、年金が減額・停止されます。つまり、頑張って働くほど年金が削られる仕組みが存在するのです。
私自身、ねんきん定期便で自分の年金見込み額を確認したとき、受け取り開始時期によってこれほど金額が変わるのかと驚きました。65歳で受け取るか、70歳まで繰り下げるかで、月の受取額は大きく変わります。
まず確認してほしいこと:ねんきん定期便(毎年誕生月に届くハガキ)を引っ張り出して、65歳からの見込み額を確認してみてください。
それだけで、老後の収入イメージがぐっとクリアになります。
3.
50代で「評価が下がった気がする」のは、あなたのせいではない。
50代になって、「なんとなく会社での居場所が変わった気がする」「評価が上がらなくなった」と感じたことはありませんか。
人事の仕事をしていると、これが個人の問題ではなく、制度の問題であることが多いとわかります。
多くの会社では、人件費のバランスを保つために、50代以降は昇給・昇格の機会が構造的に減るように設計されています。これは能力が落ちたからではなく、会社全体の給与ピラミッドを維持するための仕組みです。
「もっと頑張れば認められる」と思って消耗するより、「これは制度の仕組みだ」と知るだけで、気持ちがずいぶん楽になると思います。
そして、その「楽になった分のエネルギー」を、会社の外に少しずつ向け始めることが、これからの時代には大切になってきます。会社の評価軸だけが、自分の価値ではないからです。
私自身も、子育てが終わり、引退後に何をしたいかを夫婦で話すようになりました。そこで気づいたのは、「会社にいるあいだにしかできない準備がある」ということです。社会保険の手続き、退職金の受け取り方の選択、NISAでの資産形成——どれも、在職中に動き始めたほうが選択肢が広がります。
「難しそう」ではなく「まず1つだけ」
ここまで読んで、「なんだか難しそう…」と感じた方もいるかもしれません。でも、今日やってほしいことは1つだけです。
ねんきん定期便を探して、65歳からの年金見込み額を確認する。
それだけでいいです。引き出しの奥にある、あのオレンジ色のハガキです。
老後のお金の準備は、一気に全部やろうとすると疲れます。でも「1つだけ確認する」なら、今日の夜にできます。その小さな一歩が、意外と大きな安心につながります。
私も最初はそうやって、少しずつ動き始めました。今は、先が見えてきた分だけ、引退後の楽しみを夫婦で話せるようになっています。
あなたの「次のステージ」が、不安より楽しみで満たされることを願っています。
次回は:退職金の「一時金vs年金形式」を、具体的な数字で比べてみます。