「その手続き、期限すぎてます」を防ぐ ―― 人事の“手続き漏れ”が起きる理由と、仕組みで防ぐ考え方【第1回】

AIで効率化

こんにちは、ハルカです。製造業の人事ひと筋29年、入社・退社から社会保険の手続きまで、現場でずっと担当してきました。

今日から数回に分けて、総務・人事の「地味だけど、抜けると本当に怖い」テーマ――手続き漏れの話をします。第1回は、その全体像と、防ぐための考え方です。

「ちゃんとやっているのに、たまに抜ける」のはなぜか

まじめにやっているのに、手続きがときどき抜ける。これは担当者の能力の問題ではありません。手続きという仕事そのものが、抜けやすい性質を持っているからです。理由は大きく5つあります。

  • 種類が多い:入社、退社、扶養の増減、住所変更、産休・育休、労災……。人事の手続きは驚くほど種類が多い
  • 期限がバラバラ:「◯日以内」「翌月まで」「事由発生から◯日」など、手続きごとに期限が違う
  • 突発的に発生する:社員のライフイベントは、こちらの都合と関係なく、ある日いきなりやってくる
  • 担当者の頭の中にしかない:「この場合はこの書類」という判断が、経験者の記憶に頼りがち
  • 必要な知識が、変わり続ける:制度は毎年のように改正されます。しかも、その最新情報を”どこで・どう仕入れるか”の入口が分かりにくく、結局は担当者が自分でキャッチアップするしかない

最後の「知識が変わり続ける」は、特に見落とされがちです。手続きのやり方を覚えても、来年には要件が変わっているかもしれない。手続き漏れは「うっかり」ではなく、仕組みと情報の更新がないから起きるのです。

いまは「漏れに気づきにくい」時代になっている

手続き漏れの怖さは年々増しています。理由のひとつが、確認のサインが減っていることです。

たとえば健康保険。以前は、入社手続きをすると後日「保険証」という”モノ”が届きました。もし手続きが漏れていれば、「保険証がまだ来ない」と本人が気づいて、総務に問い合わせてくれた。つまり、紙の保険証が”手続き漏れを知らせるサイン”になっていたのです。

ところが近年は、マイナンバーカードと保険証が一体化し、従来の紙の保険証は原則として新しく発行されなくなってきています。資格の情報はマイナンバーに紐づく形になり、「モノが届く」という分かりやすい合図がなくなりました。その結果、手続きが漏れていても、誰も気づかないまま時間が過ぎてしまう――そんなことが起こりやすくなっています。

便利になった一方で、「気づくきっかけ」は静かに減っている。だからこそ、人の気づきに頼らない仕組みが、以前より大切になっています。

漏れると、社員が”静かに”損をする

手続き漏れの影響は、社員と会社の両方に返ってきます。

社員に返ってくる

  • 健康保険の資格の登録が遅れ、いざ病院にかかるときに窓口で確認が取れず、いったん自己負担になってしまう
  • 扶養の手続きが遅れて、税や保険料の計算がずれる
  • 労災、傷病手当金、育児休業給付など、もらえるはずの給付にたどり着けない

特に給付は、深刻です。というのも、多くの従業員は「自分がその給付の対象だ」ということ自体を知りません。会社(人事)が制度を把握して「あなたは対象ですよ」と案内しないと、本人は気づくことすらできない。つまり、会社の把握漏れが、そのまま従業員の”もらい損ね”になるのです。しかも本人が気づかないので、クレームにもならず、静かに損失だけが残ります。

会社に返ってくる

  • さかのぼっての手続き(遡及処理)で、事務が何倍にも膨らむ
  • 保険料の追加徴収や、書類の再作成が発生する
  • あとから発覚したときの、社員との信頼関係へのダメージ

「小さな抜け」が、社員の生活と会社の信頼の両方に響く。だからこそ、個人の注意力ではなく、仕組みで防ぐ必要があります。

防ぐ考え方は「トリガー × チェックリスト」

では、どうやって仕組みにするか。むずかしく考える必要はありません。ポイントはひとつです。

「◯◯が起きたら → これをやる」を、あらかじめ決めておく。

手続きは、必ず”きっかけ(トリガー)”があって発生します。人が入る、辞める、結婚する、引っ越す……。このトリガーごとに「やることリスト(チェックリスト)」を用意しておけば、記憶に頼らなくてよくなります。

  • トリガー:「社員が入社する」 → やること:雇用保険・社会保険の資格取得、扶養の確認、税や住民税の設定……
  • トリガー:「社員が退社する」 → やること:資格喪失、離職票、住民税の手続き、貸与物の回収……

大事なのは、「その人しか分からない」状態から、「リストを見れば誰でもできる」状態にすること。これは前回まで書いてきた”マニュアル化””属人化を防ぐ”話と、根っこは同じです。

「情報の入口」も、仕組みにしておく

もうひとつ、忘れてはいけないのが情報の更新です。せっかくチェックリストを作っても、制度が変われば中身が古くなります。

とはいえ、法改正の情報は、待っていて向こうから届くものではありません。どの情報を・どこで見ればいいのか、その”入口”を自分で決めておくことが、地味ですが効きます。たとえば――

  • 見るべき情報源を、いくつかに絞って決めておく(公式の窓口・信頼できる発信)
  • 「年に一度、リストを見直す日」を先に決めておく
  • 変更点を調べる・要約する作業は、AIに手伝ってもらう

最後のAI活用は、まさに私がこのブログで発信しているテーマです。「変わったらしいけど、何がどう変わったの?」を調べて整理する作業は、AIが得意なところ。情報のキャッチアップこそ、仕組みとAIで軽くできる部分です。

完璧なリストを作らなくていい。まず「棚卸し」から

「全部を網羅した完璧なリストを作らなきゃ」と思うと、また手が止まります。最初はざっくりで十分です。

  1. よくあるトリガーを書き出す(入社・退社・扶養増減・住所変更…)
  2. それぞれで発生する手続きを、思いつく限り箇条書き
  3. 期限と提出先を、分かる範囲で添える
  4. 迷いやすいポイント(例:扶養の判定)に一言メモ

これだけでも、「なんとなく覚えている」状態からは大きく前進します。そして、正確な期限や必要書類は制度改正で変わることがあるので、最終的な期限・要件は必ず最新の公式情報や専門家で確認する。これを前提に、リストは”たたき台”として育てていくのがおすすめです。

次回:入社・退社で漏れやすい手続きマップ

次回(第2回)は、いちばん手続きが集中する「入社・退社」を取り上げます。人が入るとき・辞めるときに、どんな手続きが、どんな期限で発生するのか。漏れやすいポイントを”マップ”の形で整理します。

「うちも、なんとなくで回している気がする…」という方は、次回もぜひ読んでみてください。

実は私はいま、この「トリガー×チェックリスト」で手続き漏れを防ぐ仕組みを、そのまま使える”道具”の形にできないか準備を進めています。「大事なのは分かるけど、自分でリストを作る時間がない」――そんな方の手間を減らせるものを目指しています。続報は、このシリーズの中でご案内していきますね。

そして、同じ”抜け・もれを防ぐ”発想を社内規定の点検に応用したチェックリストとAI指示文のセットは、すでにココナラで公開しています。「仕組みで抜けを防ぐ」感覚をつかむ入口として、よければのぞいてみてください。

改定もれ防止チェックリスト+AIプロンプト集【製造業人事29年】

ご注意

この記事は一般的な情報提供を目的としています。手続きの期限・要件・必要書類や、健康保険証をめぐる制度は、法改正や個別の事情によって変わります。実際の対応にあたっては、必ず最新の公式情報や、社会保険労務士など専門家にご確認ください。当方では、就業規則等の作成代行や行政への手続き代行は行っていません。

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